階下の角の一室を提供したそうですが、その時春一も小夜子も出発の時間は少しもいわなかったので、ホテルの方では勿論その夜は其処で二人が泊るものと信じていたのでした。
それから約一時間の間二人が、何を語ったか何をしたか

外の者に判るはずがありませぬ。ただはじめにウイスキーと炭酸水を注文されたので係の者が、ウイスキーと炭酸水となおコップを二つ運んだきりでした。
丁度八時過ぎに、第七号室の外に当る庭をそこの洗濯女が通りかかりました。ところが中から男女がひどく争っている声がするのです。どうもその争いが真剣らしく聞えたので(と、その洗濯女は説明しました)そっと窓下に寄ったのです。その室は鎧戸がしめてありましたが、室内の燈ですいて中が少し見えたのです。
その時の有様についてその洗濯女はこういっております。
「鎧戸が閉めてはありましたが下してなかったので中の電気でわりによく室内が見えました。若い男女が三尺程隔てて向き合って立っています。
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