警部に語つている所だつた

小川さんと暫くお話していましたが、六時四十分頃になつても夕食のしらせがないので、気になるので私はうちにはいり、一旦台所にまいり二人の女中にただしますと、もうできていると申します。初江は一体どうしたのかと思いまして、

「台所からの戻りがけに、お風呂の外から声をかけましたが答えがありません。余り長いのでドアをあけて中を見ますと、妹は、足を湯の上に出し、全身を湯の中につけて……頭を全く湯の中につけて死んでいたのでございます」それから彼女は悲鳴をあげて私達を呼んだ事を述べたが特に注意すべき事柄もなかつた。
警部は、ひろ子が初江の死体を発見した時の有様を更に訊ねたが、ひろ子の供述は全く私自身が見た場合と同じで、林田も私も、警部に対して同じことをくり返して述べたのであつた。初江の死体が現場にそのまま残つていなかつたことについて、警部がかなりがつかりしたらしいのは既述の通りだけれども、この点については、藤枝も余程残念だつたらしい。
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