四月二十日まで警察が眠つていた

また藤枝、林田両探偵が手をつかねてぼんやりしていたというわけでは勿論ないのだ。
よく探偵小説などでは、殺人事件が起ると少しでも怪しいという人間が片つ端から拘引されるように書いてあるものだけれど、

いやしくも法治国において、現実に事件が起つた場合、ただ「あいつが怪しい」位で無闇とその人間を引張つたり、ぶちこむわけには行かないこと勿論である。
それも、一定の住居のない浮浪人とか、一定の職業もなく偽名を用いているというような相手ならば、ただちに警察に引張る手もあるのだけれども、今まで現れた人達は、実業家として堂々たる邸宅を有する紳士及びその家族、並びに召使と、立派に薬剤師として営業している家の主人及びその雇人なので、警察でもそう高飛車に出ることを遠慮していたらしい。
藤枝、林田両名にすればなお更で、これはしきりに秋川家を訪問はしていたけれども、取込み中とて中々取調べははかどらないようだつた。
私には藤枝が一体誰を疑つているのかさえ知りようがなかつたのである。
日暮里美容室